人生の転機

日々の事や過去の大きな出来事を綴っていきます。

留置場の仲間たち

逮捕6日目。

今日も何もない日だ。

5番さんに紹介された弁護士は今日も来なかった。体調がすぐれないらしい。

それを知っていたら、もしかしたら国選で進めたかもしれない。

とにかく早く出たい一心から私選弁護士を選任しようとしたが、面会に来ないのではどうしようもない。同時に、両親への直接連絡はできなかったが、どこからかこの状態を聞きつけて、親の方で私選弁護士を雇ってくれているかもしれない、という淡い期待を抱いてもいた。結果的に、両親には逮捕の件は知られずに今に至っている。

なぜ弁護士が必要か?

現時点では容疑者だが、この先、起訴されると被告人になるわけで、そうなると下手したらこのまま拘置所行きもありえる。それだけは避けたいので、弁護士に現状を説明し相手(被害者)に謝罪文を届けたり、検事に保釈をかけあってもらうのが弁護士の役目だ。などと、あたかも自分の意見のように述べているが、刑事事件の流れなどについてアドバイスをもらったのが同室の5番さんからなのだ。

お互い、身バレしてはならないので、5番さんのことや留置場にいた人のことをぼやかしてお伝えしよう。

私にとって何より支えとなったのが5番さんだ。私より年下だが、とてもしっかりしており逮捕前は社長をしていたそうだ。と言っても、クリーンなホワイト企業ではなく、かなりグレーカンパニーで逮捕時は新聞記事にもなったそうだ。5番さんの本名も知っているので釈放後ネット検索をしたがそれほど多くの記事はなかった。いわゆる特殊詐欺系であり、被害額は結構なもんだと聞いた。5番さんと同時に仲間も逮捕されたが、全員別々の警察署に留置されている。口裏を合わせないためだ。それもあり、5番さんは弁護士以外の接見禁止が逮捕後から何か月も続いているそうだ。なぜ長期の留置なのかは伏せておく。とにかく、この留置場に何か月という単位でいるため、いつの間にか留置場の兄貴的存在になったそうだ。また、元々刑事事件の流れについても詳しかったので、新入りが来ると部屋を問わず皆が相談していた。私も不安なことがあると色々と相談に乗ってもらい本当にメンタル的に支えてもらっていた。なんの知識もない人間がこの非日常的な空間に放り込まれると正常な思考は働かず、ましてや次に何をしていいのかさえ分からない日々であるのでこのような存在の人が同じ檻にいたという事実は、今現在でもラッキーであったと思っている。5番さんは私が留置10日目に拘置所へ移送となった。熱い握手と固い抱擁を交わし別れたが、お互いの目に光るものがあった。「お互い、外に出たら会おう」と約束も交わしたが、現時点でまだである。5番さんが釈放されないからだ・・・。

同室になった人は痴漢の人と、後日来た、28番くんだ。彼は元職場に侵入し、現金などを窃盗、しかも同じところに数回とのこと。初犯であるし、被害弁済するとのことであるのでおそらく執行猶予であろうが、意外と彼も長く勾留され私の釈放時にも出られる気配はなかった。今、何をしているんだろう・・・。

他の檻のメンバーは、特殊詐欺・DV・暴行などいろいろな罪状の人間たちであったが、留置場の中という特殊なフィルターがかかっていることもあるだろうが、根っからの悪者という人間はいなかった。おはよう、おやすみなど普通の挨拶はするし、共同生活を乱すような人もいなかった。仲間という呼称はあまりよくないかもしれないが、どうしてもそのような心境になるのは仕方がないとい思われる。

 

さて、そんな中、一人独房の人がいた。どのような事件かは触れないが、間違いなくこれを読んでいるような方であれば知っている事件だ。わりと最近のこと。ざっくり言うと殺人である。その人・・・我々の中で「エース」と呼ばれていた。その罪状に対しての呼称ではなく、彼の独居房No.が1であり、また近年の中でもまれにみる事件であったことからその呼び名であったのだが、話したこともあったことも、ましてや顔を見たこともない。雑居房と独居房は離れており、エースが取り調べで移動するときなどは、出入口が見えないようにドアを閉めるからだ。さすがに彼に対しての親近感はないが、一時的にでも凶悪犯と同じ屋根の下で過ごしたという事実は、たぶん忘れることはないだろう。