人生の転機

日々の事や過去の大きな出来事を綴っていきます。

留置場の1日<午後>

12:00 昼食

私のいた、新日本警察署の留置場でのこととなるが、実は昼食時が1日のクライマックスとなる。勾留延長(最初の裁判所で勾留請求が認められるとき)となると「自弁」と呼ばれるイベントが解放される。これは自分の所持金の範囲内で月~金曜の昼食を外部発注できるものだ。このイベントが発動されるまでは、食パンが主食となる。なお、所持金がないと当然発注はできず、延々と食パン地獄となる。差し入れとして現金チャージも可能だが、私の場合は逮捕時に現金を所持していたのでその中でやりくりすることができた。ちなみに弁当の発注は前日が基本となっている。からあげ弁当、焼肉弁当、焼き魚弁当、オム焼きそば、かつ丼、カレー弁当がラインナップだった。値段は500円。税込かは忘れた。今食べたらどうとも思わないだろうが、留置されている身からすると、それは豪華な弁当に見え、なにより味付けが娑婆風である。留置場で支給される食事は基本薄めであるので、このどうでもいいただ濃い味付けとボリュームだけの昼食は留置者のオアシスであった。総合点からかつ丼を食べた回数が一番多かった。やはり警察での定番はかつ丼となるのだ。ちなみに、土日祝は弁当は頼めない。

 

13:00~ 虚無の時間

食後に歯磨きをできるわけでもなく、再び時間の流れとの戦いの再開となる。この時間までに小説1冊終了であれば1日はなんとかしのげるが、3冊目に手を出しているとどこかで昼寝などをして調整しなければならない。同室の人が差し入れなどで本の類があるとラッキーだ。本当はダメなのかもしれないが、それを回し読むことも可だ。同室の5番さんは漫画類の差し入れが多かったため、私もご相伴に預かることが結構あった。この時間帯で刑事の取り調べや面会があるとかなり気分転換となる。私の場合、勾留中の刑事取り調べは2回ほどあった。同じ署内の取調室に行って、刑事と調書を作るだけなのだが、檻で漠然と過ごすよりは圧倒的に有意義な時間だ。面会は弁護士接見を除くと、計3回あった。面会についてはまた後日、面会篇にてお伝えしよう。

 

14:30~ 点呼

またもや点呼である。逃げないって言うの。というか逃げられない。感覚だと、この午後の点呼の時が一番うるさいと思う。とにかく刑務官の声がでかいのだ。点呼時間になると、どこからか刑務官がぞろぞろ集まり、人手不足の際は刑事もパーティに加わる。檻の表裏に等間隔に刑務官・刑事が配置完了となると「〇〇〇点検~!」(〇〇〇の部分は毎回聞き取れない)「点検~!(の、全員大合唱)」とシャウトし、それぞれの檻の人数確認作業となる。終了時もまた大声だ。土日はこの時間帯の点呼はない。おそらくシフト上、土日は刑務官が少ないからだと思われる。

朝、昼前、午後、就前の4回が点呼タイムで、最寄の警察署で24時間点灯している階で中の部屋に鉄格子が見えるようなら、そこが留置場であるので耳をすましているとそのような大声が聞こえるかもしれない。ちなみに「運動」の時間で集まるところも、警察署の建物が不自然に外に出っ張ったりしている部分であることが多い。留置場が2Fにあった場合、同じ階の端にぽこっとした空間があればそれだ。警察署の前を通った際には上記のことを少しでも思い出していただけると、留置場に入った人間からするとなんとなくうれしく思う。

 

17:00 夕食

何もないと、ただ食事を待つだけの家畜状態だ。夕食は朝の弁当に1つおかずが増え、なんと味噌汁もつく。と言っても、1人前のワカメ味噌汁パックを必要以上に薄めたようなものだ。色は味噌汁だが、味は目をつむって飲むとほぼ湯であり、具のわかめを探すことも極めて困難である。勾留当初は普通に飲んでいたが、10日を過ぎたころにおかずの中で味噌汁の具に適したものがあるとそれをぶち込んで、プロトタイプ具たくさん味噌汁を作りだした。味の調整は醤油とソースであるが、これが意外とメンタル的にほっとする1品となり、後日檻仲間となる28番君(20歳代前半)にその伝統を引き継いだ。野菜系は最高の具材となり、マカロニなどはそのまま食した。野菜炒めなどがおかずにあれば最高だ。そんなようなことでもしなければ、精神的に落ちていくだけであったので、些細な調理も自分にとってはいろんな意味でプラスとなった。

 

20:00 本回収~就寝準備

20時に朝借りた官本や個人所有の便箋などをすべて返却し、檻の中には何も残さないようにする。実はここからの数十分がそれまで以上に退屈であり、寝るわけにもいかず、私にとっては最も魔の時間となっていた。20時半になると、洗面・布団の用意となるので気がまぎれるが・・・。

洗面・歯磨きタイムはささやかな他者との交流の場である。お互い本名も知らず、ただ同じ時間同じ場所にいるだけで妙な連帯感や親近感が生まれるのも変な話だが、間違いなく仲間意識があったことに間違いはない。

 

21:00 就寝

点呼が終わると就寝だ。電気は消されるものの全消灯ではなく、各檻1本の蛍光灯はこうこうとついたままだ。悪いことに、私が横になっている場所の真上がそれにあたり、やはり気になるため、だいたい寝付くのは23時ごろだった。日中の運動量も少なく、身体的疲労はほぼゼロであるため、心地よく睡眠をとれたことは勾留中ほぼ皆無と言ってよい。

夜間は、10分おきくらいに刑務官の見回りもあるので、神経質なひとは本当に眠れないと思う。そのため、希望者には眠剤が処方されることもあるそうだ。

 

これが新日本警察署の留置場スケジュールである。警察署によって若干の違いはあると思うが、おおむねこのような流れと思われる。一番堪えるのは、やはり外部社会と一切のシャットアウトであろう。面会という形で話すことはできても、自由に情報を得たり、好きなところに自分の意思で行けるということが、どれだけ人間にとって大切であるかを釈放後にあらためて実感した。